紛争・傭兵もの(その他)

 レバノン  LEBANON  2009年 イスラエル・仏・英 90分 ★★  

監督:サミュエル・マオズ、キャスト:ヨアヴ・ドナット、イタイ・ティラン、オシュリ・コーエン

1982年6月6日レバノンに侵攻した小部隊の戦いを、末端の戦車兵の目を通して描いた異色作。カメラは最後まで戦車の中から外へは出ず、車内の映像および照準器から覗いた外の様子のみが描かれている。

一台の戦車を中心に描いた戦車マニア向け映画には「鬼戦車T-34」「レッドアフガン」「戦闘機対戦車」などがあるが、この作品はカメラが戦車内から外へ出ないという異色中の異色作。
ただし大規模な戦車戦はなく、あくまで歩兵の護衛として一台だけで行動する数日間の地味な任務。それだけに戦車兵はごくごく末端の駒として外からの命令だけで動かされる。水溜りのようになった床に捨てられるタバコの吸殻。味方の戦死体や、シリア兵捕虜を運ぶ雑用。弾薬ケースに小便をするシーンなどなど、閉所恐怖症の人には見てるだけで息苦しくなりそうな映像の連続。ガリルを持って銃撃するイスラエル兵もなかなか新鮮。
ただし後半は大きな動きもなくやや退屈感あり。周りで歩兵がヘルメット脱いで完全に休養してるのに、戦車の外に顔も出さないのはちょっと不自然。なお、本編では戦車の外観はまったく登場しないが、CM映像を見るとセンチュリオンという設定のようです。(2012/11)
   チェ28歳の革命 Che Part1: The Argentin  2008年 スペイン フランス アメリカ 132分  

監督:スティーヴン・ソダーバーグ、製作総指揮:フレデリック・W・ブロスト、音楽:アルバロ・アウグスティン
キャスト:ベニチオ・デル・トロ(チェ・ゲバラ)、デミアン・ビチル(カストロ)、サンティアゴ・カブレラ、エルビラ・ミンゲス

カストロの部下としてキューバ革命で活躍したチェ・ゲバラの半生を、ドキュメンタリータッチで描く二部作。ゲバラという一人の人間とじっくり向き合いたい人にはお勧めだが、戦争映画としては実に地味。一部はキューバ革命成功まで。リアルに描いているが派手な戦闘シーンを期待するとがっかり。

キューバ革命への政治活動、ゲリラ組織を作り兵として鍛え、規律を守らせ軍隊に仕上げてゆく様がていねいに描かれているが、いかんせん単調で地味。もう少しドラマチックに面白くすることもできたと思うが、この映画はそうしないんだと気持ち切り替えて見よう。武器は第2次大戦のアメリカ製中心だが、FN・Fal装備の者もいる。戦闘シーンは終わり頃やっと出てくるが、地味な市街戦で政府軍のM4シャーマンが一輌出てくるだけ。それでいながら「続編も見ないわけにはいかんかな…」という気分にさせる終わり方がしゃく。

  チェ39歳別れの手紙  Che Part2: Guerrilla  2008年 スペイン フランス アメリカ  133分   

監督:スティーヴン・ソダーバーグ、製作総指揮:アルバロ・アウグスティン、アルバロ・ロンゴリア
脚本:ピーター・バックマン、音楽:アルベルト・イグレシアス
キャスト:ベニチオ・デル・トロ(チェ・ゲバラ)、ヨアキム・デ・アルメイダ(バリエントス大統領)、デミアン・ビチル(カストロ)、カルロス・バルデム(モイセス・ゲバラ)

キューバ革命以後、ゲバラの死までを描いた第2部。見る人によっては1部以上に地味なので要注意。

そもそもゲバラはキューバ人ではなく、キューバ革命の成功では満足できず南米全土の解放を目指す。だがその心理描写がいまいち物足りない。キューバのあとの活動はなかなか思うように行かず、追い詰められジリ貧となってゆくゲリラ部隊を淡々と描いている。この「追い詰められ感」がたまらないと感じる人もいるだろうが、大半の人にとっては一部以上に退屈と思われる。ゲリラ部隊をここまで取り上げた作品は少ないので、興味ある人は見て損はないが。(2014/11)
  ステイト・オブ・ウォー  ILUMINADOS POR EL FUEGO/BLESSED BY FIRE   2005年アルゼンチン・スペイン 100分  ★★ 

監督:トリスタン・バウアー、出演:ガストン・パウルス、パブロ・リバ、ヴィルジニア・イノセンティ

1982年に起きたフォークランド紛争をアルゼンチン側から描いた非常に珍しい映画。アメリカ映画 のようなわかりやすさも、血湧き肉踊る戦闘シーンもないが、それがかえって負けた小国の救いのない 悲惨さを描きだしている。

物語は、自殺を企てた元フォークランド帰還兵が病院に担ぎ込まれるシーンで始まる。戦闘での戦死者同様に戦後の自殺者が多かったという現実。そこにただ敗戦国となったこと以上に、経済の貧困さがあるのか、アルゼンチンとはどういう国なのかと、あらためて想いをはせる。
戦闘シーンも、ハリアーが飛来し空爆するくらいで、あとは夜戦の混乱と、激しい砲撃に追い立てられひたすら逃げる哀れな状況だけである。映画評などを見るとわかりにくい、退屈、消化不良などと散々だが、しかし別の見方をすればこれほどリアルな戦争映画もない。下っ端の歩兵、しかも負けた側となれば、戦局の全体像などわからぬまま追いまくられ、空腹と寒さに震えながら逃げ延びるのみ。そしてある日突然、我が軍は降伏したと告げられるだけなのだから。(2010/1)


 ホテル・ルワンダ HOTEL RWANDA  2004年  122分   ★★

監督:テリー・ジョージ、出演:ドン・チードル、ソフィー・オコネドー、ニック・ノルティ、デヴィッド・オハラ

1994年の悲惨なルワンダ内戦(フツ族とツチ族の対立)を描いた珍しい映画。
主人公はホテルの雇われ支配人で、一応優勢なフツ族であり財力もあるので、なんとか袖の下を使って軍と駆け引きしつつ、身内や隣人、そして見知らぬ難民たちをかくまい奔走する。というわけで正面きっての戦闘シーンは少ないが、実話に基づいた話だそうだ。
「キリングフィールド」のような内戦の恐怖と「シンドラーのリスト」みたいな民間人の命を懸けた奉仕的活動をあわせたような物語になっている。それにしても国連平和維持軍の無力さをまざまざと見せ付けられる。

以前NHKのドキュメンタリーでやっていたが、フツ族とツチ族の対立の遠い要因はベルギーの政策にあったことも知っておきたい。(2007/7)

 ボスニアの青い空  独ポ米 2002年 1時間35分 

監督:トマス・ビシュニエスキ、音楽:マイケル・ロレンツ、
出演:ボブ・ホスキンス、セルギウス・ジメルカ

ユニセフの職員が単身ボスニアへ孤児を引き取りに行く中で、数々の困難にあいながらも子供を見つけ出すが、話しには裏があり…。
これは心にしみる感動作が多数登場するサンダンス映画祭出品作品としてNHK衛星放送で放映された。最後の最後に感動できる地味ながらもお薦めの一作。というわけではっきり言って戦争映画とは言えない。
しかしボスニア内戦の不気味さ、誰が敵か味方かわからず、身分証がなければあっさり殺されてしまう恐怖。そんなものが随所に描かれた興味深い作品でもある。T-55が登場するシーンがちょっとだけある。
(2009.4)
 ノー・マンズ・ランド NO MAN'S LAND  2001年仏伊その他   98分  ★★

監督:ダニス・タノヴィッチ、出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ、フイリプ・ショヴァゴヴイツチ、カトリン・カートリッジ

ボスニア対セルビアの内戦。第1次大戦のような塹壕で取り残され身動き取れなくなった兵士。そして国連軍と報道機関が絡み合って収拾つかない状況に。ここでも国連軍の無力振りが描かれているが、悲惨な映画のはずなのに、なぜか随所にブラックユーモア満載で笑わせてもくれるのはフランス映画ならでは。ボスニア兵のひとりはでっかいべろマークのストーンズTシャツ着てるし。
国連軍はファーマス持ったフランス軍で途中からドイツ軍も加わる。ヘルメットは共通おなじみライトブルーの奴だが軍服は自前である。(2007/7)




 レッド・アフガン THE BEAST 1988米 105分 ★★ 

監督:ケヴィン・レイノルズ、出演:ジェイソン・パトリック、スティーブン・バウアー

アフガン進攻中に孤立した戦車(T62)の死の脱出行を描いた異色作。主人公はそのT-62の戦車兵だが、アフガン人の敵にも味方にもなりきれない微妙な立場を演じていて面白い。アメリカ映画なので全編英会話なのだが、T-62がず〜っと出ずっぱりで戦車ファンにはたまらない作品。

「サハラ戦車隊」「鬼戦車T-34」と並ぶ戦車主役の映画。(2007/1)




 戦争の犬たち THE DOGS OF WAR 1980米 103分 ★★★  

監督:ノーマン・ジェイスン、原作:Fフォーサイス、出演:クリストファー・ウォーケン

これも傭兵もののバイブル。しかし「ワイルドギース」をあえて「陽」とするなら、こちらは「陰」のイメージ。主役のC・ウォーケンは戦争しかできない完全なアウトロー。瞳孔開きっぱなしで仁王立ちで撃ちまくる姿は、絶対敵に回したくない奴。
前半はスパイとなって潜入するサスペンス仕立て。ボロボロにされて強制送還されるので、後半の反撃シーンが盛り上がる盛り上がる!最後に女もぶち殺せばいいのに…って観てるこっちも凶暴になってるよ…怖い映画。
しかしウォーケンはこの映画と「ディアハンター」で危ないキャラクターイメージできちゃったみたいでかわいそう。ほんとはいい人らしいよ…タップダンスが得意とか。(2007/1)



 ワイルド・ギース THE WILD GEESE 1978英 2時間12分 ★★★★  

監督:アンドリュー・マクラグレン、出演:リチャード・バートン、リチャード・ハリス、ロジャー・ムーア、ハーディー・クリューガー

傭兵もののバイブル的作品。見ない訳にはいかない。
物語はもちろんフィクションだが、モデルは60年代のコンゴ動乱。傭兵部隊の隊長を務めるのがR ・バートン、その副官にR・ハリス、R・ムーア、H・クリューガー。Jボンドでおなじみのムーアこそ登場シーンで女たらしの一面を見せるが、あとは男気一本!男、男、男の世界。
また注目すべきはその装備。ベトナム未帰還兵もの等で見慣れたアメリカ軍装備・M-16対AK47とは違い、ここに登場するのは英国産オンパレード。L1A1(FALの英国型)スターリングウージー。ベレー帽のバッジはそれぞれの旧所属部隊のものだから、英軍おたくはチェックする楽しみあり。また敵役の現地軍兵士が、FALのスケルトンストックというのも面白い。
(2007/1)

 特攻要塞都市(または)サンチャゴに雨が降る
 
IL PLEUT SUR SANTIAGO/IT'S RAINING ON SANTIAGO/RAIN OVER SANTIAGO  1975仏・ブルガリア  114分    

監督:エルヴィオ・ソトー、キャスト:ジャン=ルイ・トランティニャン、ローラン・テルジェフ、アニー・ジラルド、ベルナール・ブレッソン

1973年のチリの軍事クーデターと抵抗する市民の戦いを描いた、地味な仏・ブルガリア合作映画。

アメリカ映画のようなスピード感も迫力もないけど、人々の苦しい戦いぶりを見せようというまじめな映画で、そうやって見れば実に地味だけど悪い映画ではない。実際に登場するのはT-34を改造してM-41っぽくした戦車。市民側は対戦車兵器を持っていないので太刀打ちしようもなく、戦闘シーンも実にしょぼいです。タイトルは2種類出回っているようだが、あえて探すほどのこともないと思う。
なお「特攻要塞都市」として発売されたものは、パッケージ写真にM-1エイブラムズとM551シェリダンみたいな戦車が使われているという噴飯もの。
(2012/2)
 「特攻決戦隊」もしくは「砂漠の荒鷲Eagles Attack At Dawn 1971イスラエル 92分 

監督:メナヘム・ゴーラン、出演:リック・ジェイソン、ピーター・ブラウン、エホラム・ガオン

あの60年代人気TVドラマ「コンバット」のヘンリー少尉ことリック・ジェイソン主演(?)映画。始めからあまり期待はしてなかったけど…まぁ予想通りでした。
シリアに捕らえられた捕虜を奪還するイスラエル軍というストーリーで、その部隊の指揮官を演じています。重火器も戦車なども登場せず、ヘルメットもかぶらず個人携行の機関銃のみ。
何より残念なのはリックジェイスンの演技がワンパターンなこと。これはそういう演出なので本人のせいではありませんが、とにかく指揮官として厳しい表情で任務にまい進する、それだけに終わっています。コンバットファンとしては、コレクションの一つとして持っていたいと思いますが。

なお彼の「コンバット」以外のキャリアについては、追悼特集としてコンバットマガジン2001年1月号に載っています。そこには“この「特攻決戦隊」の後「砂漠の荒鷲」という映画が出たが、たんなる邦題の改題なのか、まったく別の映画なのか確認できませんでした。”とありました。
私の購入したビデオはその「砂漠の荒鷲」の方ですが、原題が同じですし、「ミリタリーヒーローズ(ミリオンムック、2001)」に掲載の1シーンもありましたので、同じものと断言できます。(2007)
 戦争プロフェッショナル  DARK OF THE SUN  1968年 イギリス・アメリカ 103分   ★★★  

監督:ジャック・カーディフ、原作:ウィルー・A・スミス「カタンガから来た列車」、脚本:アンドリアン・スパイ、クエンティン・ワーティ、音楽:ジャック・ルーシェ
キャスト:ロッド・テイラー、イヴェット・ミミュー、ジム・ブラウン、ケネス・モア、ベーター・カルステイン

アフリカのコンゴで反乱軍が残虐行為を繰り広げ、鉄道一本でつながった町に多数の民間人が孤立。しかもそこには国の重要な資源であるダイヤが保管されていた。プロの戦争請負人カリー大尉はコンゴ政府から呼ばれ、民間人を助けダイヤを取り戻すために雇われる。コンゴ軍から選び出した兵たちとともに武装した列車に乗り込む。反乱軍との戦いに加え、ダイヤに目をつける身内の陰謀が…。
ワイルドギース」や「戦争の犬たち」が好きな人にはぜひ見てほしい、傭兵映画の元祖名作。

ここでも基本装備はイギリス軍仕様。主人公が撃ちまくるのはスターリング・サブマシンガン。兵士たちが持つのはおなじみF1A1(FAL)。金で動く典型的傭兵カリー大尉(R・テイラー)に黒人国家の未来を信じて戦う副官ルッフォ軍曹(J・ブラウン)、自尊心を失ったアル中の医師(K・モア)。さらには軍事的才能はあるが人間として信用できない元ナチス将校(B・カルステイン)と曲者ぞろい。これに途中で救出される美女(I・ミミュー)が加わる。

民間人を守りながらの反乱軍との戦いは緊迫感たっぷり。反乱軍による残虐行為も、60年代映画にしては結構えぐい描写あり。最後の最後にはカリーの内なる狂気が爆発!任務達成するもハッピーエンドはなく、空しさ残るエンディング。傭兵映画はこうでなきゃね。それにしてもイベット・ミミュー(R・テイラーとは「タイムマシン」で共演)のかわいいこと。バービー人形みたい。(2014.12)

*ロッド・テイラー死去のニュース。2015年1月7日、ロサンジェルスの自宅にて。84歳。

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